脊椎・脊髄病センター
ご挨拶
令和7年4月1日より国立病院機構関門医療センターに脊椎・脊髄病センターを設立いたします。 本院は平成21年4月15日に旧病院から現在の関門海峡を望める県内でも非常に風光明媚な場所に移転し、高級ホテルを思わせる外観をした病院です。 令和2年4月1日より赴任して脊椎外科を担当していますが、年間平均約150例の手術実績があり、県内でも高水準の治療を行っており、全国の脊椎外科の中でもトップクラスの治療を行っていると自負しています。 脊椎・脊髄病の治療に知識と経験に基づいた質の高い治療の提供を行います。 センター医長 篠原 道雄
脊椎・脊髄病センターについて
脊椎・脊髄病疾患は腰痛をはじめ様々な疾患があり、近年の高齢化社会に伴い脊柱の退行性変化が惹起されてますます増加し脊椎外科医の役割は大きくなっています。
当センターでは若年者にも生じる椎間板ヘルニアに対してはまずは保存的治療を行います。
すなわち薬物療法、運動療法を行いますが、それでも保存治療に抵抗性であれば、保存的治療と外科的治療の中間に位置する椎間板内酵素注入療法を行います。
適応があるため全ての症例に適応ではありませんが、ヘルニアを融解する成分を含んだ注射薬を椎間板内に注入する低侵襲な治療です。
すべての症例に効果があるわけではありませんが施行後2週間程度で症状の軽快が見込めます。
難治例については外科的治療を行いますが、内視鏡や顕微鏡を用いて神経を丁寧に確認しながら安全にヘルニア切除を行います。
退行性変化である腰部脊柱管狭窄症については脊柱変形を伴うかどうかで治療方針が大きく変わってきます。
脊柱変形が少ないものに対しては後方より椎弓形成術という顕微鏡を用いて骨組織・軟部組織の神経への圧迫を取り除く直接的な除圧を行います。
入院期間も数週間と短期間が見込まれます。高齢化に伴い問題となるのが脊柱変形を伴う場合です。
椎弓形成でも中短期的には治療効果は見込めますが、脊柱変形を生じた脊柱に対して骨組織・軟部組織を取り除くことで中長期的には脊柱変形が増悪し症状が悪化してしまうことがあります。
そこで当センターではLLIF(側方進入椎体間固定術)による術式を選択します。
これは側方より小切開で特別な開創器を用いて腹部臓器を保護しながら椎間板へアプローチします。
変性した椎間板にケージという大きなインプラントを挿入し椎間板高をジャッキアップすることで脊柱管狭窄に対する間接的な除圧を行います。
さらに後方からはPPS(経皮的椎弓根スクリュウ固定)を行います。
これは挿入したケージを安定化させ骨癒合を促進させるため上下の椎体に経皮的にスクリュウを挿入しスクリュウ間をロッドで固定することです。
このLLIFとPPSの組み合わせにより従来の方法よりも低侵襲に手術を行うことが可能となっており、出血量の減少、筋肉神経へのダメージの低侵襲化をもたらすことが可能となりました。
この術式は本邦では2012年より導入されましたが脊椎脊髄病学会の指導医で特別な実技講習をうけた医師しか行うことができず、2015年に資格保持してから現在までに 例 椎間の実績があります。
脊柱変形の最も高度なものは成人脊柱変形という脊柱のグローバルバランスが破綻した症例になります。
すなわち前方から見て側弯症という捻れ、側方から見て後弯という腰曲がりの状況です。
こちらもLLIFとPPSの組み合わせを用いて脊柱変形を矯正する手術を行っています。
この術式は脊椎手術の中では最高難度の術式になり県内では当センターのみ行っている術式になります。
これらの手術は安全性を高めるため術中脊髄モニタリングを行い、術中に脊髄神経へのダメージが起こっていないかどうか確認しながら行っています。
頸椎疾患については脊髄・神経根への圧迫が、前方要素が強い症例に対しては前方からの椎間板を切除し除圧を確認したのちに固定を行う除圧固定または人工椎間板の挿入を行います。
脊柱全体の狭窄が認められる症例に対しては後方からの椎弓を削り再構築することで脊柱管を広げる椎弓形成術を行います。頸椎の変形が高度な場合は固定術を併用します。
脊椎感染については抗菌薬投与による保存的加療が前提ですが、保存的治療に抵抗性の場合や麻痺発生時には外科的加療を行います。
当センターはER、ICUも完備されており上記の変性疾患や感染症に加え外傷の診療においても力を入れています。
転落や交通外傷にて脊柱は頸椎から胸椎、腰椎までの椎体に骨折や脱臼を起こす場合があり脊髄損傷を起こしてしまえば手足の運動麻痺、感覚麻痺を生じ大きな機能障害が出現します。
超急性期の24時間以内に除圧固定術が脊髄損傷の回復に有利というデータもあり、当センターでは状況が許す限り早期手術を行います。
症例によっては術後に、再生医療であるステミラックの治療を連携している札幌医科大学などに依頼することも可能です。
脊椎・脊髄病疾患は手術後のリハビリテーションを疎かにはできません。
機能アップのためには手術と同等の価値があり、当センターでは術後のリハビリテーションについても充実して行うことができます。
脊椎・脊髄病でお悩みの方は当院整形外科に併診していますので、かかりつけ医に相談いただければと存じます。