耳寄りな話
関節の病気
人工膝関節置換術
人工膝関節置換術は、変形性膝関節症や関節リウマチなどの疾患により、膝関節の痛みや変形が強く、動きが悪いことにより歩行障害や日常生活に支障を来した患者さんに行われています。
人工膝関節置換術とは、加齢とともに膝関節の軟骨がすり減り、関節の表面が悪くなっている部分を金属やポリエチレンなどの人工のものに取り替えてしまう手術方法で、当該手術の目的は、できるだけ疼痛のない生活へ戻っていただくことです。
近年、平均寿命の増加に伴い、日常生活の向上を目指し手術を希望される患者さんの年齢も徐々に高くなっており、80歳以上の方においても人工膝関節を行う機会が増加しています。
また、今までに手術を行った患者さんの成績では、手術した後の疼痛の軽減は、概ね手術前の疼痛の1割以下となることが多いようです。
手術に際しては、13~15cm程度のできるだけ小さな皮膚の切開で丁寧に手術をするように心がけており、患者さんが痛みなく歩きたいと希望された場合、手術前の内科的検査をしっかりと行い、万全の麻酔の体制で充実したスタッフで手術を行います。術後の看護ケアも熟練したスタッフが担当し、できるだけ満足していただける医療を心がけています。
膝関節置換術前 |
膝関節置換術後 |
当センターは、リハビリテーションのスタッフも充実しており、日常生活への復帰を目指し、リハビリプログラムに沿って筋力訓練や歩行器、杖の順に使用して歩行練習を行い、約1ヵ月程度で日常生活に復帰していきます。
峯 孝友
マイクロサージャリー血管柄付き遊離組織移植
~重度の組織欠損を自らの組織で再建~
現在、自己の細胞を様々な組織に分化、増殖させて利用する再生医療が注目を浴びていますが、実用化にはまだまだクリアーすべきハードルがたくさんあります。
血管柄付き遊離組織移植とは耳慣れない言葉ですが、身体の組織の一部を、血管を温存したまま他の場所に移植する手術のことです。組織の血流が保たれていますので、治癒や機能回復が早いのが特徴です。
このような手術はマイクロサージャリーと呼ばれ、手術用顕微鏡を使用して直径1~2ミリの血管を吻合する高度な技術が要求されます。重度の外傷や悪性腫瘍の根治術後に生じる広範な組織欠損などが対象となります。再建可能な組織には皮膚、筋肉、骨・関節などがあり、これらを単独あるいは組み合わせて移植し四肢や頭頸部を再建します。
労災事故により壊死した親指 |
手術により良好な形態と機能を回復 |
写真は繊細な感覚が要求される母指指腹部の皮膚欠損に対して、第一足趾の一部を血管と神経をつけて移植したもので、良好な形態と感覚が再獲得できています。 |
もちろん爪や足趾全体を移植することもできます。 |
皮フ採取後の瘢痕、機能障害はなし |
労災事故により壊死した親指
手術により良好な形態と機能を回復
写真は繊細な感覚が要求される母指指腹部の皮膚欠損に対して、第一足趾の一部を血管と神経をつけて移植したもので、良好な形態と感覚が再獲得できています。
もちろん爪や足趾全体を移植することもできます。
再生医療と比べると採取部位に対する侵襲が欠点ですが、術後に問題となることは少ないようです。
皮フ採取後の瘢痕、機能障害はなし
当センターでは様々な難治性疾患に対してこのような高度の再建技術を駆使して、救急や遠方からの紹介患者さんの治療に当たっています。
伊原 公一郎
血液の病気
貧血
朝礼で“貧血”を起こして倒れた。“貧血”気味で朝起きられない。
このような表現をよく耳にしますが、医学的にはこれらは誤った表現です。
血液中のヘモグロビン濃度が低下しているときが“貧血”です。ヘモグロビンは、血色素ともいい、赤血球の中に含まれています。このヘモグロビンは、酸素と結びついて、体の隅々に酸素を運ぶ役割をしています。そのため、貧血になると、体が酸素不足の状態になり、疲れやすくなったり、少し動いただけで動悸や息切れがするようになります。
赤血球の産生量が減少する原因としては、材料不足(鉄欠乏性貧血、ビタミンB12欠乏性貧血など)や、骨髄自体の問題(再生不良性貧血、骨髄異形成症候群など)があります。また、赤血球の消失が増加する原因としては、出血や、赤血球が体内で壊れる溶血があります。
最も多いのは鉄欠乏性貧血です。なぜ鉄欠乏の状態になったか、隠れた病気に注意して検査を進めていきます。胃や大腸などの消化管疾患や、女性の場合は子宮の病気がみつかることがあります。
検診などで貧血を指摘された場合は、放置せずに受診することをお勧めします。
鶴 政俊
血液ドロドロと動脈硬化
「あなたの血液はドロドロです。このままにしておくと、動脈硬化が進んで大変なことになりますよ。」っていわれるとショックですよね。最近テレビや雑誌で、血液ドロドロという言葉をよく耳にしませんか?
血液中の脂肪分が多くなって、血液の粘調度(粘りけ)があがるために血液ドロドロになりそうと思いがちですが、じつはそうではありません。
右の写真は微小循環モデル装置という機械で、細い管の中を血管が流れていく様子を観察したものです。
人間の血液は、赤血球や白血球、血小板などの血球成分と、血漿(けっしょう)といわれる液体成分からできています。
血液の流れやすさは、赤血球の変形能(柔らかさ)や白血球の粘着能(くっつきやすさ)、血小板の凝集能(固まりやすさ)に影響されます。
偏った食生活により赤血球は硬くなりますし、血圧が高くなると血小板の凝集能は亢進します。またタバコや過労、ストレスで白血球の粘着能は亢進します。
このような要因によって、細い管の中を血液が流れにくくなった状態を、いわゆる『血液ドロドロ』といいます。
大切なことは、今のところ血液ドロドロと動脈硬化の関係は証明されていないことです。動脈硬化の有無を調べるには、きちんとした血液検査や頸動脈の超音波検査、眼底検査などを行ったほうが効果的です。
現在の日本人の食生活の問題点は、動物性脂肪の摂りすぎです。50年ほど前に比べて1日のエネルギー摂取量はほとんど変化していないにもかかわらず、総エネルギーに占める脂肪の摂取量が約3倍に増えています。
脂肪を摂りすぎると血液中のコレステロールが増え、動脈硬化が進行します。アメリカや日本の調査でも、コレステロール値が高くなればなるほど、狭心症や心筋梗塞になる危険が高くなることが明らかになりました。
現在のところ、日本人は欧米人と比較して心筋梗塞を起こす割合はまだ低いのですが、このままの食生活を継続すれば、いずれ欧米並みの発症率まで上昇することが懸念されています。
そのため、昨年から厚生労働省は『生活習慣による病気を減らすためのキャンペーン』を始めました。動脈硬化の予防は、きちんとした食生活や適切な運動に加えて、定期的な検査が必要です。
大谷 望
自宅で血圧を測ってみませんか?
あなたの血圧はいくつですか?また自分で血圧を測ったことがありますか?高血圧は日本で最も多い疾患です。高血圧の患者さんのほとんどは自覚症状がなく、検診などで血圧を測定した時に初めてわかります。高血圧はサイレントキラー(静かな暗殺者)といわれています。これは症状がほとんどないにもかかわらず、種々の心血管疾患の原因となるからです。したがって高血圧による合併症をおこさないために、早い時期から高血圧を正しく治療することが大切です。
現在、街の電気屋さんではたくさんの家庭用自動血圧計が売られています。日本には現在約3000万台の家庭用自動血圧計があり、毎年500万台が新規発売されています。これらの自動血圧計の測定精度は、病院で測定するものとほぼ同じです。自宅で血圧を測る場合には次の2点に御留意下さい。
①朝起きたときと寝る前の2回、なるべく決まった時間に、座って深呼吸した後に測定する。
②何回も測りなおさず、測った最初の数字を記録すること。
自宅で血圧を測ってみるといろいろなことがわかります。一日のうちで一番血圧の高い時間は早朝目が覚めたとき、ということや、あわてて血圧を測るとずいぶん高いのに、何回も深呼吸した後に測るとすぐに下がることなどです。
最近の家庭用血圧計を使った研究では、病院で測った血圧が正常でも、自宅での早朝の血圧が高い人がいることがわかりました。これを『仮面高血圧』といいます。仮面高血圧の原因は、朝内服する降圧薬が効いている時間帯に病院で血圧測定するため日中の血圧は下がりますが、降圧薬の効果が弱くなった夜間や早朝の血圧が上昇するためです。仮面高血圧の患者さんは脳卒中を起こす率が大変高いので、きちんと治療しなければなりません。
高血圧の治療で大切なことは、目標血圧になるまできちんと血圧を下げることです。したがって病院で測った血圧だけでなく、自宅で測った夜間や早朝の血圧も含めてコントロールすることが必要です。
当科では患者さんが自宅で血圧を測ることのお手伝いをしています。どのような種類の血圧計を購入すれば良いのか等の御質問にお答えし、家庭用血圧手帳をお渡しして正しい血圧の測り方を説明いたします。更に自宅の血圧計の精度に疑問があるときは、その血圧計を病院に持ってきていただき、病院用血圧計と同時に血圧測定して精度を検証しています。自宅で血圧を測ることは、生活習慣病治療の第一歩です。
あなたも自宅で血圧を測ってみませんか?
大谷 望
眼の病気
加齢黄斑変性
加齢黄斑変性という病気を知らない方も多いと思いますが、米国をはじめとする欧米先進国では、成人(とくに50歳以上)の中途失明者の主要な原因となっています。
日本においても近年の高齢者人口の急激な増加や生活習慣の変化などに伴い、患者数が増加し、視覚障害者の原因疾患の第4位の要因になっています。日本では患者数は男性に多く、年齢が高くなるにつれて増加しています。また、喫煙者に多いことも知られています。
眼の働きはカメラにたとえられ、網膜はフィルムの働きをしています。その網膜の中心(黄斑とよばれています)には、視力をつかさどる重要な細胞が集中しています。この部分に異常が発生し、視力の低下を来たす病気のひとつが、加齢黄斑変性です。
加齢黄斑変性には、異常な血管が生えてくる新生血管型と、網膜の細胞が徐々に萎縮する萎縮型があります。
新生血管型では、新生血管は破れやすいために出血したり、血液中の成分が漏れ出して黄斑が腫れ、ものを見る細胞の機能が障害されます。新生血管型は進行が速く、急激に視力が低下します。病気の進行とともに、見たい部分がゆがむ(変視症)、ぼやける(視力低下)、暗くみえる(中心暗転)の症状が現れます(図1)。
加齢黄斑変性はできる限り早期に発見して、病気の進行を止めることが大切です。図2のような格子上の表を片目でみて、線が薄暗かったり、中心がゆがんでみえたり、見えない部分があったら、すぐに眼科を受診しましょう。
治療は、従来の新生血管を破壊するレーザー光凝固術や光線力学的療法以外に、新生血管の成長を促す物質(血管内皮増殖因子)を抑える薬剤を注射して、加齢黄斑変性の原因である新生血管の増殖や成長を抑える治療が、先月、厚労省に認可され、その治療法によって視力の改善が期待されています。
小林 博
正常眼圧緑内障
視神経は網膜で受けた映像情報を脳に運び、眼と脳を繋げる電線ケーブルのような働きをしています。緑内障とは、さまざまの原因で視神経が減少し、視野異常を来たし、さらには失明にいたる重篤な疾病です。従来は、眼圧(眼球内の圧力)が高くなることによって視覚障害をきたす疾患と定義されてきましたが、眼圧が上昇しなくても緑内障で視神経が損傷することが報告されるようになり、眼圧は正常範囲内であることから正常眼圧緑内障と呼ばれています。
日本緑内障学会が行った多治見市での緑内障の有病率の調査(多治見スタディ)で驚くべき事態が明らかになりました。従来、日本人の有病率は約3%と思われてきましたが、この調査で40歳以上の約6%が緑内障であり、高齢になるにつれて頻度が上昇していました(図)。そのうちの大半を正常眼圧緑内障が占めていました。
緑内障も糖尿病、高血圧と同じように眼圧を正常値にすれば緑内障が進行しないのかというと、眼圧を正常上限(21mmHg)以下に下降させても進行します。しかし、緑内障には降圧が有効であり、十分に眼圧を下げれば緑内障が進行しないことが示されました。
早期の視野欠損でも生活の質が低下してくることから、初期から積極的な治療が必要です。そのためには、早期発見が重要です。自覚症状が出るころには相当進行しており、眼科検査以外に早期発見はできません。人間ドックだけでは不十分です。最良な方法は近所の眼科を受診されることです。
健常眼 |
緑内障眼 |
特殊な装置で神経をみえるようにしている。 黄色で、神経が存在する部位が示されており、さらに多くなると赤くなる。 緑内障眼では神経が少ないことがわかる。 |
健常眼および緑内障眼における眼から脳にいく神経の分布
健常眼
緑内障眼
特殊な装置で神経をみえるようにしている。
黄色で、神経が存在する部位が示されており、さらに多くなると赤くなる。
緑内障眼では神経が少ないことがわかる。
小林 博