サンデー健康応援講座
膵臓がんの治療
外科医長 矢原 昇(やはら のぼる)
膵癌は増加の一途を辿っており、2014年の我が国の癌部位別死亡数では肝臓を抜き、肺、胃、大腸に次ぐ4位となりました。罹患数の割に死亡数が多いため、いわゆる難治癌とされています。
膵癌診断の要となるのは、造影マルチスライスCTと超音波内視鏡下生検(EUS-FNA)です。当センターでは、最新のCT機器と常勤の膵領域専門医による正確な診断を行っています。膵癌の治療は時代とともに変わりつつあり、従来は手術が大きな比重を占めていましたが、最近では手術、化学療法(抗癌剤)、放射線、症状緩和などを組み合わせた集学的治療を行うことが勧められています。
膵頭部癌の手術では膵、十二指腸、胆のう、周囲血管リンパ節神経などを一塊に切除し、再建(つなぎなおす)します(膵頭十二指腸切除術)。体に大きな負担(侵襲)のかかる手術であり合併症も多く発生します。
術後は抗癌剤を使用すること(補助化学療法)で生存期間が延長します。従来、ゲムシタビン(GEM)が補助化学療法の主役でしたが、2013年、エスワン(TS-1)という内服薬がGEMを大きく上回る効果のあることが日本から発表され、TS-1が術後の標準治療となりました。また、術前に化学(放射線)療法を行うことにより、さらに生存率が改善することが期待されています。手術が困難な場合にも、種々の新規抗癌剤により、従来よりも確実に生存期間は延長しています。
当センターでは国立病院機構や山口大学と連携して、新規治療の開発(臨床試験)に積極的に取り組んでいます。膵癌は早期発見が困難な癌ですが、2016年、これまでに類を見ない精度で早期膵癌を診断できる血液マーカーが発表され、将来日本でも導入される見通しです。
膵癌の危険因子として、喫煙、家族歴、糖尿病、慢性膵炎などが規定されており、これらの因子が複数みられる方は定期的な膵の検査をお勧めします。